大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所金沢支部 昭和40年(行コ)5号 判決 1968年2月28日

富山県小矢部方上野本八二七番地

控訴人

大洋酒類株式会社

右代表者代表取締役

谷崎吉揮

右訴訟代理人弁護士

小原正列

右訴訟復代理弁護士

上杉文男

富山県砺波市中神一三六〇番

被控訴人砺波税務署長

松井文吉

右指定代理人

代継瀬録

吉田弘

南亮

石川県金沢市石引四丁目一八番三号

被控訴人金沢国税局長

島田種次

右指定代理人

代継瀬録

吉田弘

南亮

被控訴人

右代理者法務大臣

赤間文三

右指定代理人

炭谷忠雄

竹園義雄

松原正作

右被控訴人三名指定代理人

川村俊雄

藤沢茂

山口三夫

当裁判所は右当事者間の酒税決定等無効確認等請求控訴事件について、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一、控訴代理人は、「(一)原判決を取消す。(二)被控訴人砺波税務署長が控訴人に対し、昭和三三年四月二一日付をもってなした酒税調査決定は、無効であることを確認する。(三)被控訴人金沢国税局長が控訴人に対し、昭和三六年一二月一八日付をもってなした審査請求棄却の決定は無効であることを確認する。(四)右酒税調査決定及び審査請求棄却の決定は、いずれもこれを取消す。(五)被控訴人国は、控訴人に対し、金九四九万五、五三〇円と内金七七〇万七、七〇〇円については昭和三三年五月一一日から、内金五〇万〇、五〇〇円については同年六月一二日から、内金七四万三、六〇〇円については、同年七月三日から内金五四万三七三〇円については同年七月二三日から、右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」旨の判決ならびに右金員支払の部分についての仮執行の宣言を求め

二、被控訴人ら指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二当事者の主張

左記のほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一、控訴人の主張

(一)  本件賦課処分の無効原因は、右処分が全然何らの調査もなされずしてなされたということである。

すなわち、被控訴人砺波税務署長が、昭和三三年四月二一日付でなした酒税調査決定ないし、納税告知は、酒税法旧第二五条第一項及び第五五条第三項の規定によるものと解されるが、もしそうであるならば、右決定ないし告知処分がなされるためには、右旧第二五条第一項所定の調査がなされなければならないのに、本件の場合右調査が行われた事実はない。

(イ)なるほど、被控訴人ら主張の頃、控訴会社にかかる被控訴人ら主張の如き酒税法違反事件が存在し、東京国税局の収税官吏によって、被控訴人ら主張の如き国税犯則取締法による調査が行われたことはある。しかしながら、右の如き国税犯則取締法による調査と酒税法旧第二五条第一項所定の調査とは全く別個のものであり、ただ実務上は、前者の調査担当機関と後者の調査担当機関が同一の国税局また税務署ないしは直近、上下の関係にある国税局と税務署に所属している場合にのみ、前者の調査を後者のそれに転用することが、内部的事務処理上の便宜と経済の角度から、許されているにすぎないものというべきところ、本件にあっては、前記酒税法違反事件の調査に当ったのは、東京国税局の収税官吏であり、控訴会社に対する酒税法上の所轄官庁は、被控訴人金沢国税局長及びその管下の被控訴人砺波税務署長であって、右両者の間には、何ら前記の如き所属上の同一ないし直近、上下の関係は存在しないから、前記酒税法違反事件の調査をもって酒税法旧第二五条第一項の調査に代えることはできない。

(ロ)本件に関しては、右酒税法違反事件の調査以外に被控訴人砺波税務署長が酒税法上の調査をした事実はないから被控訴人砺波税務署長は、前記東京国税局収税官吏の通報により、これを鵜呑にして本件酒税決定ないしは納税告知処分をなしたかも知れないが、それだけでは、酒税法旧第二五条第一項所定の調査があったということはできない。

かようなわけで、本件賦課処分は、何らの調査なくしてなされたものであるが、本件賦課処分における右調査の不存在はまさに重大且つ明白な瑕疵というべく、本件賦課処分は無効である。

(二)  被控訴人らの当審における主張事実中(二)の事実はこれを争い、(三)の事実中、本件賦課処分が被控訴人砺波税務署長の適法な調査に基いたものであること、及び被控訴人砺波税務署長が被控訴人ら主張の通報資料に基いて調査の上、本件酒税賦課決定を行ったものであることはこれを否認し、東京国税局の収税官吏が被控訴人ら主張の如き酒税逋脱の確信を得たことは知らないが、その余の事実はいずれもこれを認める。

二、被控訴人らの主張

(一)  当審における控訴人主張の無効原因事実は否認する。

(二)  酒税法旧第二五条第一項は、単に申告書に記載されている課税標準石数と税務署長の認定した課税標準石数とが異るときには、税務署長は自己の認定した数量で課税標準石数を決定することができることを定めていたにすぎないものであって、酒税の賦課処分の必要要件としての調査を定めた規定ではなかった。課税標準石数の決定に当って、税務署長が調査を行うべきことは税務署長の職責上当然のことであるが、酒税法は、右の調査を如何なる方法でどの程度行うかについては、何も規定していないから、それは税務署長の裁量に委ねられているものと解釈せざるを得ない。

(三)  本件賦課処分は、右の如き意味における被控訴人砺波税務署長の適法な調査に基いてなされたもので、控訴人主張の如き無効原因はない。

すなわち、東京国税局の収税官吏は、昭和三二年一一月頃東京都墨田区寺島町の酒類販売店石井商店こと訴外石井好子を酒税法違反容疑で調査中、控訴会社の酒税逋脱容疑を探知し、控訴会社の取締役で工場長をしていた訴外森正一代表取締役社長訴外谷崎吉太郎、支配人訴外池守儀信、技師訴外久保田繁美らの自供を得、その弁解も充分に聴取し、その製造方法、売捌先、原料関係、利得金の保管、処分関係、味噌の入手関係等についても、でき得る限りの裏付調査を行なった結果控訴会社及び右訴外人ら四名は共謀して、昭和三〇年四月から同三二年九月までの間に、申告以外に少なくとも六五〇石以上の焼酎を製造移出して金九二九万五、〇〇〇円の酒税を逋脱していたとの確信を得、控訴会社らを右容疑で東京地方検察庁に告発するとともに、これを被控訴人金沢国税局長を経て被控訴人砺波税務署長に通報し、被控訴人砺波税務署長は、右通報資料に基いて調査の上、本件酒税賦課決定をなしたものである。因に東京地方検察庁では、前記控訴人外四名を本件賦課決定のあった逋脱税額金九二九万五、〇〇〇円(逋脱石数六五〇石)の酒税逋脱の被疑事実で起訴、控訴人らは、いずれも全部有罪(但し久保田繁美のみ一部無罪)の判決を受け、同判決は既に確定しているが、この一事に照らしても控訴人の主張がいわれのないものであることは明らかである。

第三証拠関係、

一、控訴代理人は、甲第一号証、第二号証の一ないし二四、第三号証の一ないし四の各イ、ロ、ハ、第四号証の一ないし三、第五証の一ないし六、第六号証、第七号証の一の一、二同号証の二、三、第八号証、第九号証の一、二、第一〇ないし第二一号証、第二二号証の一ないし三、第二三号証を提出し、乙第六号証の一、二、第七号証の一ないし三の成立は知らないが、その余の乙号各証の成立はいずれも認める、と述べ、

二、被控訴人ら指定代理人は、乙第一号証の一ないし六、第二号証の一、二、第三ないし第五号証、第六号証の一、二、第七号証の一ないし三を提出し、証人宮川秀雄の証言援用し、甲第一八、一九、二一号証は、公証人作成部分の成立を認めその余の部分の成立は、同第二〇号証の成立とともに不知であるがその余の甲号各証の成立はすべて認める(但し甲第一号証、第二号証の一ないし二四、第三号証の一ないし四の各イ、ロ、ハ、第四号証の一ないし三、第五号証の一ないし六、第六号証、第七号証の一の一、二、同号証の二、三、第八号証、第九号証の一、二、第一〇ないし第一二号証、第二三号証については原本の存在も認める。)と述べた。

理由

一、当審引用の原判決摘示の請求原因第一、第二項の事実ならびに第三項中、利子税及び延滞加算税の各税額の点を除くその余の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二、そこでまず控訴人主張の本件各処分の無効原因について検討する。

(一)  まず被控訴人らは行政処分の無効を主張するには、当該行政処分に重大且つ明白な瑕疵のあること具体的事実に基いて主張することを要するのに、本件の場合、控訴人は、右主張を尽していないから、失当である旨を主張するが、控訴人は、当審において、その主張を付加補強し、これを原審における主張と合せれば、結局控訴人は、本件各処分の無効原因として控訴会社がその主張の期間内に移出した焼酎の石数は、既に主張の如くわずかに合計一三石にすぎないのに、被控訴人砺波税務署長は全然何らの調査もなさずして、さきに主張の如く、合計六五〇石もの焼酎を移出したものとして本件賦課処分をなしたもので、これはまさに重大かつ明白な行政処分の瑕疵というべきである旨を主張しているものであって、右主張によれば、瑕疵の明白性についていささか疑問が残らないではないが、一応本件処分の無効原因の主張としては、これをもって足るものというべきであるから被控訴人らの右主張は容れることができない。

(二)  そこで次に控訴人主張の右無効原因の存否について判断するに、本件の全証拠によっても、控訴人主張の如き無効原因事実は到底これを肯認することができないのみならず、却って、被控訴人らの主張事実中、東京国税局の収税官吏が被控訴人ら主張の如き経緯で控訴会社の酒税逋脱容疑を探知し、控訴会社の取締役で工場長をしていた訴外森正一ほか被控訴人ら主張の三名の自供を得、その弁解も充分聴取し、被控訴人ら主張の如き裏付調査も行った結果、控訴人らを酒税逋脱の容疑で東京地方検察庁に告発するとともに、これを被控訴人金沢国税局長を経て被控訴人砺波税務署長に通報したことならびに右告発を受けた東京地方検察庁は、控訴会社と被控訴人ら主張の四名を本件賦課決定のあった逋脱税額金九二九九万五、〇〇〇円(逋脱石数六五〇石)の酒税逋脱の被疑事実で起訴し、その結果被控訴人ら主張どおりの有罪判決があり、同判決は既に確定していることは、控訴人も認めて争わないところであり、右争いなき事実に成立に争いのない甲第一、第八、第一一号証、乙第一号証の一ないし六、第二号証の一、二、第三ないし第五号証、当審証人宮川秀雄の証言によって真正に成立したものであることが明らかな乙第六号証の一、二、第七号証の一ないし三ならびに右証言を合せ考えれば、本件賦課処分は、上記の如き控訴会社に対する酒税法違反被疑事件調査の結果、国税庁の訓令第一八号間税監視事務規程第八条に基いて東京国税局長から、被控訴人金沢国税局長を経て、被控訴人砺波税務署長に送付されてきた控訴会社に対する酒税の調査決定関係資料を所轄の被控訴人砺波税務署長が精査し、さらに所轄庁として必要な調査をなした上で、これを決定したものであるが、昭和三〇年四月から同三二年九月までの控訴会社の焼酎の移出高とその酒税額は、右決定どおり石数において合計六五〇石、税額において合計金九二九万五、〇〇〇円であったことが認められ、右認定を左右し得るような証拠は何は何もない。

控訴人は、本件の場合は、その主張の如き事由で本件の酒税法違反事件の調査を、本件賦課処分のための調査に転用することは許されず、また前者の調査結果を鵜呑し、なされた本件賦課処分は、適法な調査によったものとはいい得ない旨を主張するが、被控訴人砺波税務署長がなした本件賦課処分は、前認定のように、単に控訴会社に対する前記酒税法違反事件の調査を転用したり、あるいは右調査結果を鵜呑にしたりしたものではなく、前記酒税法違反事件の調査を管掌した東京国税局長から送付された控訴会社の酒税調査決定関係資料を被控訴人砺波税務署長において精査し、さらに必要な調査をなした上でこれを決定したものであるから控訴人の右主張は理由がない。

(三)  かようなわけで、被控訴人砺波税務署長の本件賦課処分は、適法にして控訴人主張の如き、無効原因は到底これを認めることができないから、被控訴人砺波税務署長に対しては、右賦課処分の、被控訴人金沢国税局長に対しては本件決定の各無効確認を求め、右無効を理由に被控訴人国に対し、納付済税金相当額の不当利得金の返還を求める控訴人の本訴各請求は、いずれも理由がない。

三、よって次に控訴人の本件賦課処分及び本件決定の各取消ならびにこれを理由とする不当利得金返還の各請求について判断するに、右各取消請求の訴は、原判決説示のとおりいずれも法定の出訴期間を徒過した不適法なものであるから、却下は免れず、その理由は、原判決説示理由(原判決八枚目表一行目から同表三行目まで。)のとおりであるから、これを引用する。

してみれば、右各取消請求の理由あることを前提とする不当利得の返還請求もまた失当たるを免れない。

四、以上説示の次第によって、控訴人の被控訴人砺波税務署長に対する本件賦課処分の無効確認、被控訴人金沢国税局長に対する、本件決定の無効確認の各請求及び被控訴人国に対する不当利得金の返還請求をいずれも棄却し、被控訴人砺波税務署長ならびに被控訴人金沢国税局長に対する本訴各取消請求を却下した判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条にしたがって、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西川力一 裁判官 島崎三郎 裁判官 井上孝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例